11 August

■ 鯉のから騒ぎ

 まさかの快投・レイボーンの煽りを受けたのはあの男――昨夜は久々に外苑前で飲み会決行との召集令状が投げられていた。東海道線から地下鉄へと乗り換えさらに歩くこと10余分ばかり。遥々やってきた先は、なんてことはない神宮球場のヤクルトvs広島戦だった。しかし試合の印象がまるでないのは神宮の、ダイヤモンドまでが果てしなく遠い外野席からのビューだった影響もあるだろうが、やはり到着した時点ですでに0−8もの大差がついていたことが最大の要因だろう。

 遠方からやってきた私のがんばりが序盤のたった2発によって徒労に終わったことを労わる意味も含めて、仲間は歓迎の音で迎えてくれた。中でもいつになく一際異彩を放っている男がいた。

「今日はビールのことなら何でもワイに言ってくれよ」

 その表情には自信が満ち溢れている。だが一人シラフのまま何のことか把握しきれずにキョトンと佇む私もすぐにその発言の意図を察することとなった。少しすると、並んだデブ3頭を見据えて一人の売り子が階段を上がってきたのだ。

「あれ、一人増えましたね」
「頼もしい助っ人が来たよ」

 普段はネガティブこの上ないキャラで「あの歯切れの悪さは手の打ちようがない」と我々からもサジを投げられていた男が、この日は先頭に立って誰よりも積極的に切り盛りしているではないか。自分のカップにはまだ半分ほど黄金の液体が残っているにも関わらず、「3杯ちょーだい!」と誇らしげに指を差し出している。こんな笑顔は出遭ってから10年来見たことがなかった。

 ならばこちらもまな板の鯉ならぬ、厳しい逆流にその身ひとつで立ち向かう鮭のごときこの男の後方支援をするのが筋というものだろう。並々と注がれた1杯目に手を伸ばし2時間遅れの乾杯の声と同時にグイっと乾いた喉元に流し込むと、そのまま3人目のビールを慎重に注いでいる彼女に向かって空になったカップを差し出し「おかわり」の雄叫びを揚げるのだった。これで売上が伸びるとともに男の接触の機会も増え2人ともども満足だろうて。


 試合は2時間49分であっさりと終了した。最終回に広島が2点を追加したものの10得点にしては短すぎる余りにも淡白なゲームだった。そして我々の腹には男に唆されるがままにマイペースを大きく上回る何リットルものビールが樽のように実っていた。普通ならグロッキーな己を省みてこれで会もお開きになるところだが、21時前を示していた時計の針が我々を解放路線へと歩ませなかった。もう飲めもしないのに「一軒寄ってくかぁ〜」の声声声。その勢いは、私が初めて当選したスタジアム主催のくじの賞品との引き換えを見事に3人揃って忘れるほどだった。

 結局一行は外苑前駅へと至る道を進み、適当な一軒の焼き鳥屋に腰を下ろすことにした。「生3つととりわさと何たらと・・・」とオーダーするももはや「とりあえずビール」どころか押せども引けども何も動じない状態。せっかく入ったのだからこれではいかんと"いつものように"トイレに篭り、Oh!Yeah!と自発的に放出させると再び席に戻る頃には顔もすっきり、乾杯ビールに続いて軽やかに箸を滑らせる私だった。しかしこのときはまだこの後にあれほどのワッショイな出来事が控えていることを知る由もなかった。


 私と恥人が飲み直しとともに話題を変えプロレス談義に花を咲かせていたとき、目の前ではビールバブルが弾けてしまったように頭を垂れうつらうつらと記憶を飛ばしがちになっている男がいた。何も食せず何も話さずの姿勢に終始するしかない男を見かねて、全く手を付けられていない男の分の乾杯ビールを代わりに飲み干す。

 こうして幾ばくかの時が無駄に流れた頃、メニューから釜めしが「おいでおいで」と自分を誘っていることに気付き、トイレにひた走るとアンコールに応えOh!Yeah!を再度熱唱。出てきた頃にはポワ〜ンと旨そうな香ばしい匂いを立てて釜めし様が待ち構えていた。さっきまでの満腹三昧がウソのように一人で釜を囲み小鉢から勢いよくかっ食らう。

 すると1つの異変が目に入った。自力で体を支える能力を失った男が頭をテーブルに接着させすでに封神寸前になっている。それはまさにロープ際に追い詰められてクリンチでただただゴングを待つボクサーのよう。特に顔が青ざめているわけでも他人に迷惑をかけているわけでもないのでそのままの状態で放置しておいた、のだが・・・


 ちょうど釜めしの底が見えこれからオコゲの部分を堪能しようかというとき、"それ"は始まった。

『コポっ コポコポコポっ。。。』

 何かの培養液が一杯に満たされたビーカーから溢れ出るように、奇怪な音とともに男の口からつらつらと透明な液体が滴り始めたのだ。

「あらららら〜」

 咄嗟の出来事にただただ目を見開くしかなかった対岸の2人を傍観者へと追いやると、そのうち無色だった液体に固体までもがドロドロと混じり始めた。そう、どうしてもこの日の主役を譲れない男は民衆の面前でOh!Yeah!の片鱗を披露し始めたのだった。

「これはホントにヤバい!」

 普段から介抱される側の立場にしかいない私が素早くおしぼりを手に口を押さえOh!Yeah!の園へと男を搬送していく。

「手を洗うところではやっちゃダメよ!あれ修理するの10万かかるんだから」

 以前何者かにやられたのであろう災難を思い出したのか、やや厳しげな表情で圧力をかけてきた店のおばはん。「なぁに、しんぺーすんな。もうすでに今日2回も"経験済み"なんだから」と言ってやりたかったがこちとらそんな余裕もなかったか。

『グフォぅぅ。。。』

 間一髪間に合った。2人を閉じ込めた密室に備えられた陶器の底がみるみるうちにオレンジ色に染まっていく。薄れゆく意識の中で男は肺に残っていたひと握りの酸素を振り絞った。

「1つだけ教えてくれ」

「なんだ?なんでも言ってみろ」

「オレは・・・フラれたのか?」

「・・・何言ってるんだ。勝ったんだ!オマエは勝ったんだよ。だからオマエはこんなところで歩みを止めるわけにはいかないんだ。明日また行ってキメてくるって約束しただろ。あのコが待ってるぞ!」

「そうか、よか っ ・・・ た ・・・」

『ガクン。。。』

「まさか・・・おぃ!」

「おい!」

「オィィ!寝るなぁぁぁ」


 安らかに逝くがいい、友よ。この後、男は微かな理性に促されるがままにほうほうのていで自宅の門を叩いたと言う。この男の名は、"太った黒田"とでも伝えておくことにしようか。ちなみに私は帰り道にラーメンを摘み食いし帰宅後この日3度目となるライブを開きこの夜の一切の活動を終えている。


確か野球を観に行ったはずでは・・・
神宮外野自由奔放席

23:28:22 | guippo | 4 comments | TrackBacks

25 July

■ 決まりすぎたスタートダッシュ

 先日の試合後の話。前回のラーメン屋(ごとう)が気に入ったキャプテンの声に乗り、ゑぐ号で帰り道の池袋に向かうことになった3人。酸いも甘いも4日間で十二分に噛み締めた私は早速コンビニに横付けしてもらい待ちきれんと缶ビールを2缶購入。呪縛からの解放を告げるプシュープシューという快楽の音を立て続けに打ち鳴らすとそれは瞬く間に爽快な濁流となって喉元に轟いた。

 そんな折り、王子に差し掛かった辺りの交差点左折直後に夏服警官の群れが目に入る。

『ピー!ピピピピピ〜』

 一人の警官が静止を促がすターゲットは我々の車だった。3人が3人とも何が起きたかもわからぬまま、大人しく路肩に寄せるゑぐ。まもなく開けたウインドゥに30代半ばの警官の顔が浮かび上がった。

「そんなに急いでどこ行くの?あそこ!一時停止だよ」

 普段自分で運転する機会がないため、「警官はイカつい」という先入観が埋め込まれている私だが、その警官はこちらの想像を超えてフレンドリーだった。渋々と免許を差し出すゑぐに対して

「何?ゴールドかぁ。最近何かやっちゃったことは?」

 口調からして、「見逃してくれるのか」との甘い考えが車中の民に過ぎった。しかし・・・

「ああだこうだ(よくわからなかったので省略)で、点数は2ヶ月後に戻るけど罰金だけ7000円納めてね」

 結局持っていくところはきっちりと持っていかれた格好。期待を裏切られてしょぼんとするゑぐに対し警官はまだ何か言いたげ。

「いやぁ、それにしても今日一番の飛び出しだよ!」

 前の車の進出に併せて向こう見ずに飛び出したゑぐの快走が余程ツボったらしい。ただひたすらスティールの発端となったアンツーカーならぬ通りへの進入口の方向を見つめ悦に入っている様子。するとゑぐ、

「我々野球人はいつだって次の塁を狙っているんですよ」

のような模範解答が引き出されることは終始なかったが、呼びかけに応じる形で他の警官らの群がる白バイの方へと吸い寄せられていった。その姿、まるで盗塁を差された走者がとぼとぼとベンチに向かうがごとく。



遠くを見つめるゑぐ


怪しい青装束のグループと取引をするゑぐ


 その昔、同乗した(それぞれ別々の)車が短期間の間に三度事故るという経験を持つ私。その時のドライバーの居たたまれない心境とその場の雰囲気がやりきれなく、自身の運転を極力避ける暮らしが続いている。今回はネタにしてしまったけれど、試合の快勝と自らのホームランで意気揚揚と盛り上がる気持ちを一瞬にして凍りつかせることになったゑぐ氏の心理も十分察していたつもり。感謝してます(何に?)。フォローに全然なってない・・・

19:56:57 | guippo | 107 comments | TrackBacks

24 July

■ 適材適所と打順の妙

in 西新井橋河川敷グランド at 11:30 on 7/23
 
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BUGFIRE010602X9

勝 バイ男 5勝3敗1S(11試合10登板7先発6完投)

9番ピッチャー(1〜6回)→セカンド
1.遊ゴロ(左打席)
2.遊打(左打席)
3.遊失(右打席)


 この試合に先立って4日間の禁酒令を強いた。職場での誘いを断り、同期の宴への参加も見送り、コンビニの缶ビールの誘惑をも振り解き、週末の決戦に備えた。鉄人・村田兆治は試合の3日前から酒を断ち、妻と寝室を別にしたと言う。その真摯な姿勢に肖った。そこにはただ勝ちたいというだけには留まらぬ、とある思い入れがあった。


 春。今回の相手・あっぷるずに対してニャンキースがエース・すがしん氏の好投で7−3と完勝している実績があった。ニャ軍のエースは私から見て、投手の鑑のような人物。フィールドプレーでは積極的にベースカバーに走り、打つ方でも4番に座りチームの責任を負った。そして試合後は投げ終えて疲れた体を厭わず誰よりも熱心にグランド整備に励むのが常だった。それに対する私はといえば、外野手のポロリをマウンド上で笑い、打順もやる気のない9番。そして試合後はトンボではなく無下に携帯を取り出しスコアボードの撮影に勤しむのが日課となっていた。そんな畏敬するエースの勇姿に少しでも迫りたく、同じあっぷるずを相手にせめて結果だけでも上回る失点2に抑えたかったのだ。

というわけでこの日のウイニングショット
1−9

 さらには前回見せた、三振か四球かの独りよがりのプレースタイルではなく、今回は打たせて取るピッチングでナイン全員で勝利を分かち合いたいという理想を描いていた。そしてそれができる9人がこの日は揃っていた。ニャンキースからブログ出演を目当てにゑぐとキャプテンが、レッドコックスからは屈託のない笑顔が魅力の西山氏が助っ人として参加し、9人どこを見ても潜在的な穴はなかった。久々に打順のオーダーに対する事前要望を願い出て、守備位置もこちらの思惑をしっかりと反映させてもらうことで、勝利に対して万全を期した。


 こうして試合当日を迎える。毒素の吸収を断った肉体は枯渇に喘いでいた。惰眠を貪ることができず6時前に目が覚める。程なくして鉛色の濃天からやや強めの雨が降り出し開催が危ぶまれたが、路面を一面湿らせたところですっかりと止んだ。

 会場に向かうライトバンの中で、相手チームの助っ人に上述のすがしん氏ほか、ニャ軍のメンバー3人がいる事実を知る。「なんてこったい」。その思いは試合開始を前にしてより一層強くなった。なんと、あっぷるずの純メンバーは3人しかおらず残りはすべて助っ人で補われていたのだ。しかもひとり人数が足りていない。

「これでは力比べにならないではないか」

 そもそも常識的な問題として同一リーグ内で人員の貸し借りを行うこと自体がナンセンスだった。自軍に加わっているニャ軍2人の存在を棚に上げて憤慨の色は隠せなかった。

「オレが禁酒をやり遂げた意味はなんだったんだ」

 この日に備えて高めていた緊張感が一気に解放され、すべての怒りがあっぷるずの赤いユニフォームへと向けられた。更なる衝撃は、そのあっぷるず3人のいずれも投手をできる人間がおらず、急遽すがしん氏がマウンドに上がることになった裁量だった。

「あいつら、クソだろ」

 こんなところですがしん氏と投げ合う必要などまるでなく、秋にあるであろうバグファイヤーvsニャンキースのメインイベントの価値が損なわれていくのを感じた。この時点で試合の真意は空虚なものになっていた。どこか裏切られたようなメランコリックな感情が私を支配していた。

 本来なら不戦勝で然るべきはずだったが、私以外はそれほど相手に拘っている選手もおらずプレイボールの運びとなった。自滅して無駄に相手に勝ち星をプレゼントする最悪なケースだけは避けなければならなかった。相手のマウンドにはこの上なく最強の代役がいる。


 初回。相手の1〜3番にはニャ軍の助っ人が添えられた。こちらも当初の私の案で1〜2番にゑぐとキャプテンの核弾頭コンビが座っている。お互いとても手を合わせ辛い場面だったが、これをともに三者凡退と、この2人にして十分想定内である投手戦の様相を呈して始まった。

 2回。私のピッチャーゴロ送球エラーを発端に1点を失う。「厳しい展開になる」。そんな思いも束の間、その裏に練馬の怪童・いたが右中間への特大ツーベースを放ちすぐさま1点を取り返してくれた。

 「味方が点を取ってくれたので力が入ってしまった」。桑田がよく残すコメント、3回はこれを標榜する展開となった。力んで急にストライクが入らなくなったのだ。走者を貯め3番打者、勝手知ったる顔がスライダーを掬い上げた打球が右中間を襲う。完全に抜ける当たりだったがライトが身を呈すファインプレーで事なきを得た。普段レフトを守る「を」をライトにコンバートしていたのが最高に奏功した。悔しがるはタイムリー1本を不意にされたニャ軍・好ちゃん氏。

 4日間の努力とは裏腹に、調子は芳しいものではなかった。河川敷というグランドコンディションの悪さも相まって球に勢いが感じられなかった。意識するあまり投球フォームが崩れているのが自分でもよく理解できていた。球が四方に散らばり、空振りも奪えない。しかしそこは自慢のバックが好守でカバーしてくれた。エラーは試合を通じて、私の1つとゲッツーを焦ったショート・ゑぐのポロリ、その2つしかなかったものと思う。


 均衡した試合は4回裏に動きを見せる。走者を2人置いて8番キャッチャー・シゲ。ストレートを叩いた打球が三たび右中間を襲う。なんとこれが伸びに伸び、ダイレクトに草むらへと吸い込まれる起死回生のスリーランとなった。マウンド上で仰向けに転がるすがしん氏。続く内野安打の私を置いて、すがしん氏vsゑぐの3度目の同門対決。復調著しいゑぐの打球はライナーでレフト定位置へ。しかしあらかじめ深く守っていた、ヘルプの「を」がバウンドの目測を誤り後逸。はるか後方に延々と転がるランニングホームランとなった。先ほど自軍で魅せた超ファインプレーの面影はどこへやら、とても同一人物とは思えぬ守備姿勢にチェンジの後、相手ベンチに平謝りに行く「を」の姿が敵味方総じて笑いの渦に巻き込んだ。

 試合の趨勢は決していた。ホームランを打ちノリノリで冴え渡るキャッチャーのリードに応え、ナックルでストンと空振りの三振をもゲット。そして6回に自軍が貴重な追加点を奪うと私はもうお役御免。せっかく来ていただいたねぎらいの意を込めて、レッドコックスの西山氏にゲームの締めを託したのだった。


 投打が噛み合うというのはこういうことを指すのだろう。守備のいいリズムが攻撃に刺激を与え、個々の力が線となり大量得点を生んだ。熟慮の基に組まれたオーダーはチームの力を2倍にも3倍にも変え、全員野球での気持ちのいい勝利となった。唯一の懸念材料は、この稀に見るパフォーマンスを対ニャンキース戦までとっておいてくれればよかったのに、ということ。本番での再戦が思いやられる。

 この後、我らがゑぐが自慢のスカイラインで大チョンボを魅せてくれるのだがそれはまた別のお話。


2005年通算成績
 











出塁
長打
左打席1814500021102.357.500.357
右打席149403030220.444.6421111


22:54:52 | guippo | No comments | TrackBacks

17 July

■ 6回16奪三振で負け投手

 
POKONYANS040010-5
BUGFIRE000000-0

負 バイ男 4勝3敗1S(10試合9登板6先発)

9番ピッチャー
1.一飛(右打席)
2.中三打(右打席)


 練習試合・・・のはずだった。「調整登板のつもりでいいから」と伝えられていた。故に暑さに任せて10日ばかり続けて酒を浴びた。前夜も大ファンの鶏と戯れしっかりと午前様を決め込んでいた。そんなユートピアな世界が1回表、マウンドに上がって激変する。

 サード助っ人、ショート助っ人(というか、ゑぐ)、レフト野球未経験者、ライト野球未経験者、そしてセカンドはなんと女性だった。まともな守備を計算できるのはファースト、ショート、センターだけだったのだ。しかも相手に迎えるのは明らかに格上、高校野球経験もある歴戦の腕達者たちが居並ぶ打線。「前に飛ばされたらいつまでもチェンジにならないんじゃないのか」。投球練習をしながらそんなある種の恐怖感に襲われた私は一つの覚悟を胸に秘める。

 三振しかアウトを獲る手段がない。

 この時点で生半可なゲームプランは消え、スライダーとチェンジアップを見せ球にして4隅のストレートとカーブですべて三振を狙う決意は揺ぎないものとなった。それでも際どいところを突かねば軽く弾き返されてしまうことを懸念し四球は一切辞さずの構え。そして長らく低迷を続けていたカーブではあったが、このレベルではおっ付けられて軽々と外野に運ばれてしまうスライダーでは手に負えず、どうしてもカーブの破壊力が必要になった。


 かくして1回、その思いが現実となる。先頭打者がサードエラーで出塁すると、続く2番のボテボテ打球が私の前に。フォースアウトを狙い素早く2塁に送球するもなんとゑぐと女の子がベース上でお見合いパーティー。ボールは2人の"濃密な"空間を妨げることなくセンターへと転がっていった。しかし事前の覚悟が奏功したのか、すべて想定内の出来事と以降の打者を3者三振に斬ってなんとかゼロに封じた。たった1回を投げ切っただけなのにものすごい疲弊感が蓄積していた。

 2回。事態は収束不能な方向へと動き始める。シュートを詰まらせたセカンド後方のポテンヒットを皮切りにエラー、エラー、エラーの連続。あっという間に4点が失われた。2つの三振を挟み、最後はサードが無難にゴロを捌きどうにか進攻は食い止められた。もうこの時点で頭の中は「三振、今何回で何個奪取」、これしか反響しなくなっていた。

 3回4回は記憶にないがゼロで素通りした。5回に四球の連続で満塁となり難儀な左打者(というか、練習試合のためうちのチームから臨時助っ人に借り出されていた「を」)をカーブでハーフスイングに仕留めたつもりがノーの判定。結局、粘る「を」に対して根負けの形で押し出しとなった。その間にファーストフライが1つあったが残りのアウトはすべて三振。しかしこちらの攻撃は最初からノーヒットのまま1つのエラーでの出塁のみに抑えられていたのだが。


 最終回の攻防。例によって四球による走者を貯め、相手チーム随一の強打者・2番を迎えた。向こうはバットを振り振り打ち気が満々だった。初球、高めのストレートをカットされる。このときベンチに向かって「おっ付けてライトに持ってくわ」の声が。2球目カーブ。その発言の通り、ファールとはいえ一塁ベンチをかすめる右方向のライナーが放たれた。このチームリーダーはここまでずっと自軍攻撃の際に審判を務めていた。

「もしかして球筋が見切られてる・・・?」

 困窮窮まった私の疑念を感じとってくれたのか、この日久々に野球に訪れた新婚正捕手がマウンドに駆け寄ってきた。

「次、どうする?」
「ストレート勝負で」
「わかった」

 腹は決まった。小細工が通用しないのならありのままをぶつけるしかない。体調管理もせぬまま6回を迎えていたためいつ足が攣ってもおかしくない状態になっていた。肘が過去にないほど軋んでいる。もう振り絞るものはなかった。

 無心のまま投じられた渾身の一球はその反動で自然とミットから目が背けられ視界を真っ黒に染めた。手を離れた瞬間、岡島の顔が暗闇に浮かんだ。必死に軌道を追う。コマ送りのまま白球が描いた軌跡の終着点は構えたミットのド真ん中に収まった。野村克也が常々口にするセリフ、「困ったらアウトローに投げときゃいいんだよ」。まさに実行したのは寸分も違わぬそれだった。投手にとって最高の栄誉である見逃しの三振。

「ありゃ打てねぇ」

 ベンチへの向かいがてら、相手を称える声が流れてきた。そしてそれに同調するナイン。それだけで力投は報われた。


 シナリオはもう少しだけ残っていた。裏の攻撃。1死で回ってきた6回にしてようやくの2打席目。ピッチャーは前の回からそのチームリーダーへとスイッチしていた。投球練習からすでにスナップのやり繰りだけでカーブ、シュート、チェンジアップ、そして伸びるストレートを軽々と操っているのを目にしている。「硬式経験者はこれだから・・・もうなぁ」。

 相次ぐ2三振でスランプ気味の左をこの日はバッサリ封印し再び右打席に入る。コースを突いた投球が次々と外れるもノースリーからスライダーでストライクを稼がれる。ストレートに対応できるリズムで変化球を待っていた。そして来た。重心はブレなかった。チェンジアップを掬った打球がセンターの頭上を越える。二塁打だろうと流しているともう1つ狙えそうだという欲が生まれ、エンジン再動。間一髪ながらポリシーであるノースライ(怪我しちゃうけん)で三塁を落としいれた。これで今年、右打席での安打全4本のうち3本が3塁打という自己満足な珍記録を達成。しかし・・・続くサードゴロに飛び出し三本間に挟まれタッチアウトの憂き目。

「どうしても1点が欲しかったんだよぅ・・・」


 試合は結局、完封殺に終わった。こちらが2安打なら向こうも2安打。ストレートとカーブは結局芯を捉えさせることがなかった。好投を支えるのはコンディション調整にも優る、その場その場の集中力なのか。来週の公式戦に備え火曜から禁酒生活に臨もうとしている私の心意気は・・・。とはいえ、一人一人に対して執拗なまでの神経をすり減らすこうも過酷な組み立てを毎試合続けていたら絶対に肩か肘を故障するだろうな、とひたむきな野球人の気苦労も奥底に覗き見た貴重な一戦だった。これが野球選手というものなのか。

 前夜飲んでいる最中に、恣意的な理由で草野球から遠ざかっている恥人からメールが入っていた。

「和巳と松坂(ソフトバンクvs西武)が今年一番の試合してますよ。意味のない球がない」

 一球入魂。試合を目にする機会はなかったが、心に刻んだメッセージの結果がアウト18に対しての奪三振16となって表れた。私にはこの数字だけで満足だった。後はモジモジして殻に閉じこもっている"主役"のグランドへの復帰を待ちわびている。足りないパーツはただ1つ、好投を繰り返しても張り合いがないのだ。


 さて、この疲労を癒すべく残る連休は温泉療養に励むズラぜ。



2005年通算成績
 










左打席16400021102.333
右打席13403030120.444


03:14:34 | guippo | No comments | TrackBacks

15 July

■ 読めたサヨナラへのマイルストン

蹴球★情熱
野球中継担当のカメラマンが「蹴球★情熱」のTシャツ着用なんて・・・


 駅貼りのポスター写真がとてもウマそうに見えたカレーミュージアムか、それともこの日唯一のプロ野球開催となった横浜vs広島戦か。悩んだ我々はハイカラな異空間ではなく、オールスター前の"消化試合"を見届けようとバックスクリーン横の定位置に腰を落ち着ける道を選んだ。

 スコアは着いた時点ですでに取ったり取られたりのシーソーゲームとなっており、右側には「関東にこんなにファンがいるのか」と目を疑わせるほど大挙して押し寄せたカープファンの大群がこの日も労を惜しまず屈伸運動に励んでいる。が、試合は特に見どころもなく以後たんたんと進んだ。然したる事前興味もなかった私の目には少なくともそう映った。唯一リマーカブルされていい159km男・クルーンは終盤の広島の"余計な"頑張りに登板の機会を奪われ、そのままゲームは延長戦へと突入した。

「ほらやっぱり。オレ、今年3回来て2回延長っスよ。堪んないっス」とは隣人の弁。

 見せ場は5−5で迎えた11回裏に訪れた。ここまでどうにかこうにか凌いできた広島・高橋建に横浜・金城が相対する。過去5打席凡退だった左打席に替わり、左投手を迎えてこの日初めての右打席に入った。

 すでにここに至るまででその兆候は見えてはいたが、高橋建は決め球を持っていないように思われた。追い込んで優位に立っているにも関わらず打ち取るまでの一球に相当の苦労していた。そしてここでも。

 ストレートとスライダーでツーワンと追い込んだところまではいいが。あわよくばと引っ掛けを狙った外のシュートはしっかり見切られ、続くスライダーも同じく外に外れフルカウントに。そして勝負に出たストレートを遭えなくカットされるともう観ているこっちまで息苦しくなってきた。

「もう投げる球ないんじゃないのか」
「オレだったらカーブだな」

 一球でもインコースに抛る勇気があればまた違った結末が切り開かれたことだろう。だがミットは4球連続、アウトローの同じところに構えられた。そして最後の一投はそのミットよりもボール1つ分高く、さらにはボール2つ分内側へと入ってきた。まるで置かれた立場の危うさをそのまま投球に具現したかのように。

 打球はそんな懸念を知ってか知らずか、ブレることなく一直線に我々の陣取る席の5つ前に飛び込んだ。


スクワットなら任せろ
懸命なスクワットも虚しく自力V消滅なる洗礼を浴びた人々

16:08:18 | guippo | No comments | TrackBacks